■ついに本命アンコール・ワット/7月2日

午前中はホテルでゆっくり過ごして午後から車で出発。

先ずは廃墟の趣のタ・プロームからだ。
密林に覆われ、苔むして崩れ去るままの姿を修復せずに見せていて、どこか日本のわびさびの世界に通じるものがある。
榕樹の姿は様々で、今にも地球に飲み込まれて行きそうだ。
それにしても木の生命力には驚かされる。
石の上から芽が出て数百年、肥料もなく手入れもしなくてここまで来るか。
恐るべし、亜熱帯。

そしてついにこの旅の本命のアンコール・ワットへ。
アンコール・ワットは正面が西向きなので午後からの光線がベストなのだそうだ。
近くで目にした時はついに来たかと感無量。
長い参道を通ってワクワクしながら少しづつ近付いて行く。
アンコール・ワットに絶妙なバランスであしらわれているのは砂糖椰子の木。高さは50mはありそう。

アンコール・ワットは密林に忘れ去られていて140年前に発見されたのではなく、アユタヤに滅ぼされた後もずっとお坊さん達が住み込んでいたのだそうだ。
そこにフランス人探検家が来て世界に公表した。
だから今もお坊さんや尼さんが脇にある寺院に大勢住んでいるし、今でも地域の信仰の現役の場所でもある。内部には絹をまとった仏像が置かれ花が飾られ香が炊き込められている。

三つの回廊に囲まれたアンコール・ワットは、正面の外観と中でのイメージが異なる。
正面からは割合平面的に見えるのだが、実は奥行きの方が長いくらいのスクエアな形で一番外側の第一回廊は1周約800m。その壁面をぎっちり埋めるレリーフは壮大な絵物語だ。
次の第二回廊の周囲は500〜600m。ここもまたまたレリーフの洪水。
あまりに広い敷地に無限のようにレリーフが続くので、まるで迷宮にはまりこんでしまった気分。さっぱり現在地を把握できない状態が続く。
そしてやって来ました、第三回廊。聞きしにまさる急階段だ。
高所嫌いのニカさんはパス。下でゆっくり観ているという。

母は「ここまで来たからには登る!」と言うので、私も軽い気持ちで同行する。
急な石段を最初は気楽な気分で登り始め、半ばで下を見てぞっとする。
思ったよりずっと高くて急だ。おまけに段々と足場が悪くなって来る。
これじゃ上の人が落ちて来ないとも限らない。
急に自分が高所恐怖症だった事を思い出した、もう遅いけど...
極めつけ、最後の2段は石段が手前に傾斜しているので、滑り落ちたら真っ逆さま。
ここまで来たら逆に怖くて戻れない。必死の覚悟で上まで到着。
上からの景色は写真参照。(もちろん絶対、写真より実物の方が怖い)
怖くてギリギリ端まで行けず、下もろくに見れず、来た道を降りなくては帰れないというストレス。

せっかく上まで来たのに、情けなくも帰る事だけで頭の中がいっぱい。
ここで母は中央の涅槃像に父の冥福を祈る。
さすがにアンコール・ワットの最上階で祈れば効果は絶大でしょう。
苦労してたどり着いた、ここは天国に近い神聖な場所ですものね。

下りは鉄パイプでサポートした階段があるというので列に並ぶ。
列の先は空しか見えない。
降り始めた人の「ヒャ〜ッ」と言う声がたびたび聞こる。足の裏にじっとりと汗をかく。順番が来て鉄パイプを見ると、太さ2〜3cmで鉄棒が錆びて曲がったようなやつを簡単に釘で石に打ち付けてあるだけ。そこに何十人もつかまっている。本当に大丈夫なのか...
石段の巾もやたら小さい。こりゃあ確かに「ヒャ〜ッ」ですよ。
母は先に行ってと言うので先に降り始める。

真下の景色は見ないようにして、ただ自分の足元だけ見て一段づつ下る。
そして母共々無事地上に着地。神々の世界から生還した感じだ。
色々な意味で充分なインパクトを受けながらも名残惜しさを残しアンコール・ワットを後にする。

車での移動中、ガイドさんに聞いてみた。
「カンボジア人はタイ人が嫌いですね?」
これは話の端々で感じた事なのだが、やっぱり「嫌いです」との事。
一番嫌いなのはタイなのだがタイだけでなく、ビルマ人もベトナム人も嫌いだそうでした。戦争や侵略の歴史がそうさせているし、隣の事は近いだけに嫌な事も気になるもの。日本と韓国、中国の関係と良く似ているみたい。

日本人に対しては、遺跡の修復への協力や各種ODAやお金を使ってくれる観光客のおかげで、どこでもとても友好的に対応してくれるからありがたかった。
カンボジアでは現在韓国人の旅行客が最も多いそうなのだけれど、彼らはケチで気が強いから少し苦手だそう。
確かに、日本人が一番金払いが良くてホケ〜ッとしてて扱い易いでしょうね。
次にタイへ行ってから感じたのは都会だったせいもあるけれど、女の人が気が強そうだな〜っていう感じ。

タイではカンボジア人の事を田舎者呼ばわりしていたからお互い様だなあ。
隣接する同じアジア人どうしでも、国によってこんなにも愛憎がドロドロしてて気性が違うっていうのもなかなか面白い体験でした。